『方言漢字』

笹原宏之

(2013年2月25日刊行,角川学芸出版角川選書・520],東京,253 pp., ISBN:978-4-04-703520-1版元ページ

笹原「国字」本は必ず買うようにしている.日本各地で発生し続けるローカルな「地域漢字」と「地域読み」の本.漢字というオブジェクトの系統地理学を考える上で興味深い.まずは第5章「近畿の漢字から」を読み始める.「天橋立」を一字で表す漢字が登場する(p. 153).造字的には「辶」の上に「日」が3×3型正方行列で乗っかるというおそるべき漢字.しかし,ルーペで拡大すると「日」のみの 3×3 行列はどうやら “誤植” のようだ.GlyphWiki の字体と見比べると 3×3 行列の右下隅の第 (3,3) 成分だけ「巾」が正しい.編集者泣かせの国字.ルーペを持ち歩かないといけないようなら歩き読みには適さないかも.「スケトウダラ」の漢字(「魚」+「底」)は北大生が造語したと書いてあったぞ.北大生おそるべし.漢字の地域変異の発生と分布に関する系統地理学的な話にはさんで,絶滅危惧漢字の保全をどうすべきかという問題提起がなされている.たとえば,埼玉県八潮に特異的に分布する「垳(がけ)」という地名漢字の事例が挙げられている.「一つの地名が消滅の危機に瀕している.埼玉県八潮市にある「垳」については……その地区の大半が,今どきのどこにでもあるような「青葉」に変えられようとしている.一度変われば,この日本で唯一の国字を使用した地名は,住所として復活させることは困難だろう」(pp. 101-102).「保全◯◯学」は,保全対象「◯◯」が “生物” であれ “漢字” であれ,同じような動機づけと方法論そして地域的な取り組みがあることを知る.

【目次】
はじめに 7
第1章:漢字と風土 —— 漢字の使用地域とそこに暮らす人々 11
第2章:北海道・東北の漢字から 73
第3章:関東の漢字から 93
第4章:中部の漢字から 111
第5章:近畿の漢字から 143
第6章:中国・四国の漢字から 159
第7章:九州・沖縄の漢字から 197
第8章:方言漢字のこれから 235


あとがき 246
主要文献 251