増山暁子
(2006年2月12日刊行,東洋書林,ISBN:4887217005)
新刊案内でタイトルを見たときから,早くも「買うべき本」と決めていた.北イタリアの峻険なドロミーティ地域の民話を現地にたどる.異人や異神,魔物や妖怪が続々と登場する.アタリです.序章でも引用されているように,15年も前に読んだ菊池照雄『山深き遠野の里の物語せよ』(1989年6月20日刊行,梟社,ISBN:なし)を彷彿とさせる,現実界と幽冥界との混ざりあいだ.ドロミーティはイタリア版の“遠野”ということですね.
北イタリアと言えば,ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』の舞台だったり,あるいは「ヴォイニッチ写本」(→参照)の発見場所だったりするわけで.さらにいえば,カルロ・ギンズブルグ『夜の合戦:16−17世紀の魔術と農耕信仰』(1986年1月28日刊行,みすず書房,ISBN:4622012111)の舞台もここらあたりだったりするわけで,それはもう「場」としては実に申し分ないではないですか.
国や地域あるいは時代や文化を問わず,こういう妖しいものたちに関心をもつ書き手がいるというのはとても心強いと思う.かつて,リアル書店の店頭で山本ひろ子『異神:中世日本の秘教的世界』(1998年3月23日刊行,平凡社[2003年にちくま学芸文庫に入る], ISBN:458247506X)を衝動買いしたことを思い出す.日本にも「妖しい神々」がいたという事実を知ったのは幸せだったが,そういう対象に向かってアンテナを張っている人たちがいるということこそ実はもっと意義があるにちがいない.
『イタリア異界物語』では,「伝承神話」から「現代民話」への流れの中に,著者が自然にはまりこんでいるようだ.ひとつだけ注文をつけるとしたら,掲載写真がもうちょいクオリティが高ければ言うことないのだが.