Morton Beckner
(1959年刊行, Columbia University Press, New York, viii+200 pp. → 目次)
今から半世紀前の本だが,今で言う“生物学哲学”の先駆にあたる著作.当時は,生物学と哲学の接点と言えば,論理実証主義らのっとった「統一科学運動」という主流派があった.Beckner もこの主流派の生物学側のカウンターパートだった Joseph Henry Woodger を視野に置きつつ議論を展開している.冒頭の序言で,彼は科学哲学が物理学にのみ関心を向けていて,生物学や人文科学を見ていない状況を憂えている.目次をざっと見るかぎり,後の1970年代初頭の生物学哲学「第一世代」に取り上げられる話題の多くは,この本ですでに登場している.
この本のコピーは大学院のころに太田邦昌さんのもっていたコピーからの孫コピーを取らせてもらった.そのうち原本を手にしたいと思いつつ四半世紀が過ぎてしまった.当時のColumbia University Press のハードカバー版は「天」が彩色されていて,本書は朱色に塗られている.堅牢な造本でまったく崩れていない.
古書として入手したからには,このトークン本の前所有者に敬意を払っておきたい.見開きには「Everett Mendelsohn 59 02.10」というペン書きの署名が入っている.人違いであるはずがない.この本は Harvard University 科学史学科のビッグネームである Everett Mendelsohn 教授が所蔵していたものだった.署名の年月日からみて,彼がハーバードに赴任する直前に,新刊で本書を入手したのだろう.全編にわたって鉛筆でのメモ書きや下線があることから,かなり精読した跡がうかがえる.書き込みのある古書は安く買いたたかれることがあるが,場合によっては“まっさら”な本よりもむしろ役に立つ.これも何かの縁ですので,ありがたく使わせていただきます.