『フクロウの家』読売新聞書評

トニー・エンジェル[伊達淳訳]
(2019年2月10日刊行,白水社,東京, 277+7 pp., 本体価格3,000円, ISBN:9784560096758目次版元ページ

読売新聞大評:三中信宏「満ちあふれる愛情 —— フクロウの家…トニー・エンジェル著 白水社 3000円」(2019年4月7日)が〈本よみうり堂〉で公開されました.



満ちあふれる愛情

 さまざまな鳥たちの中でもフクロウの仲間はとりわけ「人間ぽい」顔立ちをしている。昔から擬人化されやすいフクロウたちが、洋の東西を問わず、知恵の象徴あるいは幸福の化身とみなされてきたのももっともなことだ。

 本書は、長年にわたって自然保護と環境教育の活動を続けてきた芸術家による北米フクロウ図鑑である。著者が子どもの頃から慣れ親しんできたフクロウたちへの親愛の情がどのページからも伝わってくる。しかし、森の中や人里近くの林に巣をつくって子育てをするこの夜行性鳥類がどんな生活を営んでいるかについては必ずしも広く知られているとはいえない。

 本書の前半ではフクロウとはいかなる鳥であって、人間の社会や歴史や文化とどのように関わってきたかを総説する。後半は北米大陸に分布する主要なフクロウ類を解説する各論だ。たえず餌不足に苦しみ執拗な捕食者と戦いつつ厳しい自然界の中で生きるフクロウたちに追い打ちをかけるように、人為的な環境破壊による危機がひたひたと忍び寄っている。著者は交通事故など人間社会との接点で傷ついたフクロウたちの世話をしたこともたびたびあるそうだ。

 全編を飾る手描きのフクロウ図版の数々は、夜の闇の中を音もなく飛ぶこの鳥たちの隠された生態と現状を読者に強く印象づける。仲睦まじいつがいによる懸命の子育てと外敵との戦いぶりや巣立ち、雛の親離れ、そして傍らでそっと見守り続けている著者の家族の図はそれぞれがひとつの物語を編む。イラストと文章の絶妙な織り込みは、アメリカ流の上質な「ネイチャー・ライティング」の伝統が今も脈々と息づいていることをあらためて再認識させる。本書にはサイエンスとアートのみごとな融合がある。

 手練れのネイチャー・ライターの手になる「フクロウ讃歌」。いたるところに満ち溢れる“フクロウ愛”に一人でも多くの読者が包みこまれてほしい。装丁と造本も格別だ。伊達淳訳。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年4月7日掲載|2019年4月15日公開)