『Index, A History of the: A Bookish Adventure』書評

Dennis Duncan
(2021年9月刊行,Allen Lane / Penguin Books, London, xii+340 pp., ISBN:978-0-241-37423-8 [hbk] → 目次版元ページ

これまでの読書メモをまとめて束ねました.

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索引は “人格” をもっている

索引(インデックス)の歴史的成立,地道な索引づくりを手掛けてきた索引作成者(インデクサー)たちの人間模様,そして “検索マニア” が蔓延する現状を論じる.

 

序章「Introduction」(pp. 1-17)冒頭から「索引のない本なんて想像できるか」と書かれていて,首がもげそうなほどうなずいている.単に「Ctrl+F」ですむ話ではない.続く第1章「Point of Order — On Alphabetical Arrangement」(pp. 19-47)では,アルファベット順の「目次(index)」のもつ機能と「目次作成者(indexer)」の深謀遠慮(あるいは陰謀)について,さまざまな事例を散りばめながら論じられている.

 

第2章「The Birthes of the Index — Preaching and Teaching」(pp. 49-84)からは「目次」の歴史をたどる.13世紀イングランド神学者 Robert Grosseteste は「tabula」を用いて書物に記された概念と体系を整理しようとした.また,同時代のフランスの神学者 Hugh of St Cher も用語索引(コンコーダンス)を発明した.目次(table of contents)は本の内容を順序立てて示すのに対し,索引(index)は順序にはこだわらない.たとえば,Grosseteste が作成した「Tabula distinctionum」(p. 70)は “事項索引” に相当するものだった.それは一冊の本にとどまらず,複数の関連本の索引でもあった.13世紀に同時多発的に生じた「索引」というシステムは,読書(読者)のための “位置づけ(locate)” の便宜を図るためにあった.

 

第3章「Where Would We Be Without It? — The Miracle of the Page Number 」(pp. 85-112)では,冊子体の本の「ページ付け」について考察される.索引が各項目の “位置” のリストであるならば,その位置の標識となるのは “ページ” である(p. 88).中世から現代にいたるまで,紙の本ならばページが付けられる.これに対して現代のリフロー型の電子本では,たとえばキンドルの「loc#」のようなまったく別のロケーターが必要になる(p. 99).最初の索引は Johannes Gutenberg と同時代(15世紀)の Werner Rolevinck (p. 86)と Peter Schöffer だった(p. 102).冊子体におけるシートとページの関係(pp. 106-108)はとてもわかりやすい.

 

第4章「The Map or the Territory — The Index on Trial」(pp. 113-135)では,索引づくりの試行錯誤の歴史をたどる.索引のできがよければ,読書への時間の投資の可否を的確に判断できる(p. 117).索引を “読む” ことで,その本の全体的内容を把握できるだろう(p. 119).その索引はテクストではなくヴィジュアルに描かれた事例もある(p. 120).あえて,目次を付けないことをセールスポイントにした本もあった(p. 123).索引は本文の “後” に付けるものと現代の読者は先入観をもつが,逆に本文の “前” でもいいじゃないかと Conrad Gessner は考えたらしい(p. 128).索引の機能と形態がまだ不確定だった時代の話だ.

 

第5章「‘Let No Damned Tory Index My History’ — Sparring in the Back Pages」(pp. 136-170)では,索引づくりを仕事とする “インデクサー” が登場する.インデクサーの(ときに政治的な)主義主張が索引の仕上がりは大きく変わる.著者は17世紀の Charles Boyle と Richard Bentley の事例(pp. 142 ff.)を挙げ,インデクサー William King による索引を分析する.続いて,King は1660年創刊の王立協会学術誌 Philosophical Transactions の索引づくりをも手掛けた.時代が下ると索引づくりを専業とするインデクサーが現れるようになる(p. 163).

 

第6章「Indexing Fictions — Naming was Always a Difficult Art」(pp. 171-202).小説に索引が付く例はワタクシは知らないが,本章ではその事例が挙げられている.たとえば,Lewis Carroll の 家族誌 Rectory Magazine の目次にはインデクサーの署名が入っている(p. 179). “索引の索引” (p. 195)なるものまである.フィクションの索引はそれ自体が “作品” であると著者はみなしているようだ.

 

第7章「A Key to All Knowledge — The Universal Index」(pp. 203-229)では,「普遍索引(The Universal Index)」なる概念が出てくる.複数の書物にまたがる索引を作成することにより,ある分野全体のチャートをつくろうという大規模な目論見だ(p. 211).19世紀後半にはライブラリアンの国際会議が開催され,普遍索引をどのように作成するかが議論されたという(pp. 209 ff.).その気運は「索引学会(the Index Society)」という学会の創立にいたった.広範な知識の樹(tree of knowledge: p. 218)の体系化としての普遍索引の意義はともかく,その実践には解決すべき問題が山積していたので,けっきょく数年後にはこの学会はなくなってしまったという(p. 219).その一方で,複数の雑誌を横断的に総括する索引づくりはライブラリアン個人の仕事としてこつこつ続けられた.その一例として,William Poole による長年にわたる雑誌索引の業績が挙げられている(pp. 221-228).

 

第8章「Ludmilla and Lotaria — The Index in the Age of Search」(pp. 230-260)は本書全体の総括に当たる部分だ.本を読むことと索引づくりとはまったくの別物だ(pp. 230, 232).インデクシングはインデクサーによる本の内容の “分析” という介入が不可欠だからだ.コンピューターを用いてコンコーダンスを自動作成するアプリはすでに出回っている.しかし,そのようにしてつくられたコンコーダンスはそのまま索引として使えるわけではない.現在では「インデクサー協会(the Society of Indexers')」(p. 258)が活動していて,インデクシングの技法は長足の進歩を遂げている.今なお索引づくりにはインデクサーの “人力” が必要とされている(p. 250).そのときインデクサーの大半は “無名の” 女性であるという現実は認識するべきだ(p. 260).著者は歴史に名を残さなかった数多の女性インデクサーたちに今ふたたび光を当てるべきだと言う.1950年代以前は「コンピューター(computer)」といえば,機械としての「計算機」ではなく,生身の人間としての「計算者」だった(Cf: David Alan Grier 2005. When Computers Were Human. Princeton University Press, Princeton).その計算者としての仕事を担ったのもやはり “無名の” 女性が大半だった.

 

最後の「Coda — Archives of Reading」(pp. 261-270)は,索引の本質を簡潔に述べている:「索引には人格(personality)がある.それに対して,コンコーダンスや検索バーには人格はない」(p. 264).巻末の「Appendix: A Computer-generated Index」(pp. 303-307)にはアプリを使ってコンピューターで自動生成された索引が掲載されている.インデクサーによるチェックが入らないと明らかな間違いや不都合がそのまま残ってしまう.他方,専門のインデクサーである Paula Clarke Bain の手になる32ページにも及ぶ索引「Index」(pp. 309-340)が付けられている.機械生成された索引とマニュアルでつくられた索引とのちがいは誰の目にも歴然としている.

 

ワタクシは本書で初めて索引づくりの歴史を知った.一年前から手元にあるインデクシングの教科書:Nancy C. Mulvany『Indexing Books, Second Edition』(2005年11月刊行, The University of Chicago Press[Chicago Guides to Writing, Editing, and Publishing], Chicago, xiv+315 pp., ISBN:0-226-55276-4 [hbk] → 目次版元ページ)を手にとる意欲がやっと湧いてきたように感じる.

 

なお,カバージャケットの「アルファベットの樹」の出典はこちら:Geiler von Kaysersberg 1490. Wikimedia Commons [jpeg]

 

三中信宏(2022年5月12日公開)