『蜘蛛——なぜ神で賢者で女なのか』感想

野村育世
(2025年6月10日刊行、講談社講談社選書メチエ・826]、東京, 317 pp., 本体価格2,700円, ISBN:978-4-06-539550-9目次版元ページ

読了。ご恵贈ありがとうございます。日本文学史をひもときながら、蜘蛛への古今のイメージの変遷をたどる。めっちゃおもしろい蜘蛛の本。著者は文字通りの “arachnophilia” ! 第6章冒頭で著者はこう書いている:

「少なくとも私は、蜘蛛の姿をいくら見つめていても、不快な気分はどこからも湧いてこない。そもそも全ての生きものは、環境に適応して進化した自然の造化なのであって、その形を不気味と思うかどうかは、人によるし、時代や社会にもよる。これまで見てきた王朝の人々は、蜘蛛を不気味とは思っていなかった。『古事記』『日本書紀』『風土記』の土蜘蛛以来、鎌倉時代の後半になるまで、日本の文献に蜘蛛を嫌う記述はないのだ。つまり、八世紀から一三世紀までのおよそ五〇〇年にわたって、日本には、蜘蛛を嫌う文化はなかった。」(pp. 216-217)

前に、植木朝子虫たちの日本中世史——『梁塵秘抄』からの風景』(2021年3月1日刊行,ミネルヴァ書房[叢書〈知を究める〉・19],京都, vi+327+11 pp., 本体価格3,000円, ISBN:978-4-623-09058-7目次版元ページ)を読んだとき、蜘蛛と蝶はその吉凶の解釈が中世と現代では正反対であると書かれていたことを思い出す。