『オーバードクター問題:学術体制への警告』

日本科学者会議(編)

(1983年12月1日刊行,青木書店,ISBN:4-250-83039-X

20年以上も前の本だから,もちろん「新刊」として買うのはムリだろう.古書として出回っているかも.あるいは大学図書館公共図書館の書庫に眠っているか.

【目次】
序論 なぜ「オーバードクター問題」を問題にするか
第1部:深刻化するオーバードクター問題と学術体制
第2部:オーバードクター問題の分野別実態
第3部:オーバードクター問題の解決と学術体制の発展
第4部:諸外国の事情
第5部:インタビュー[オーバードクター問題と若手研究者]
展望:オーバードクター問題の解決をめざして
付属資料・付属統計・参考文献
あとがき

いまになって20年も前のこの本を再び開くことになろうとはね.この本が出た当時はまだドクターコースにいたので,危機感をもって読んだ記憶がある(書き込みをたどると「1984年3月13日」にイッキ読みしたようだ).もちろん,その時代に“オーバードクター問題”が深刻化していたことは同世代ならば誰でも知っていたことだ.だからといってお手軽な解決策があるはずもなく,予想されたコース通りぼくも4年半の “オーバードクター” を経験することになった.

当時の“オーバードクター問題”と,いま遅まきながら表面化しつつある “オーバーポスドク問題” では,問題状況(「母集団」の規模,大学院教育政策のあり方,法人化に伴う変化)が大きく異なっているので,いちがいに同列の論議を進めることはできないだろう.ただし,この本にはさまざまな“統計データ”が載っており,それらを踏まえた論議なり提言は説得力があった.

いまの “オーバーボスドク問題” に関して,本書のように議論のための基礎情報を含む資料は出版されているのだろうか? ここ数年,国内で出版されている新刊情報はほぼ漏れなくチェックしているが,新聞や雑誌での報道以外でそのようなオーバーポスドクをめぐる “社会問題” をテーマとする本に遭遇したことはまだない.

1980年代に学生や院生だった世代は,もしうまく大学で生き続けていれば,その多くは現役の教員として後進を指導している立場にいまあるだろう.いまの“オーバーポスドク問題”をどのように解消していくのかは別として,少なくともかつての“オーバードクター問題”を身近に経験した〈語り部〉として,当事者あるいは関係者あるいは傍観者だった自らの経験をいまの学生や院生に語りつぐ必要(あるいは義務)があるだろうとぼくは思う.