『マラケシュの贋化石:進化論の回廊をさまよう科学者たち(下)』

スティーヴン・ジェイ・グールド

(2005年11月30日刊行,早川書房ISBN:4152086858 [上巻] / ISBN:4152086866 [下巻] ).



第3部〈ダーウィンの世紀と現代:ヴィクトリア朝英国の四大ナチュラリストに学ぶ教訓(承前)〉を読む.ダーウィンオーウェンについて.

第4部〈すばらしさの意味とそのありかをめぐる六つの掌編〉は,物故した人物小伝.カール・セーガンはグールドのとっての“同志”みたいな存在だったのだろう.第5部〈科学と社会〉は一転して,闘士が戻ってくる.第19章で取り上げられているフランク・サロウェイの本『Born to Rebel』(『反逆児に生まれる』)に対する「二律背反的」な評価スタイルはグールドにしては珍しいのではないか.人間の家族内での“出生順序”が決定的意味をもつと主張するサロウェイの本について,グールドは,その内容を全体として肯定的に評価しているが,いかんせん出版する時期が遅すぎたと言う.

第6部〈あらゆる縮尺での進化〉は正統的な進化エッセイの集まり.とくに,第22章「見えるのに使えないという逆説」は,evolution in action のいい味のエッセイになっていると思う.個人的には,第20章「とにかく害をなさぬこと」に登場する J. B. S. ホールデンの毒ガス推奨本『カリニコス』が気になったが.

—— ときどき味わえるグールド本も残すところ数冊か…….『I Have Landed : The End of a Beginning in Natural History』(2002年刊行,Harmony Books,ISBN:0609601431)も渡辺さんが訳すことになるらしい(もちろん『SET』も).