『検証・なぜ日本の科学者は報われないのか』

サミュエル・コールマン

(2002年4月10日刊行,文一総合出版ISBN:4829900652



【目次】
アーサー・コーンバーグによる序文 5
日本語版への序文 10
謝辞 18
凡例 22

第1章:はじめに 26

 成長傾向と輝かしい業績 28
 それでも一流になれない 30
 科学とテクノロジーはどこが違うのか? 33
 テクノロジーが優先される研究資金配分 35
 クレジットサイクルとその意義 38
 現実世界のクレジットサイクル 40
 日本社会で有効なクレジットサイクルを妨げているものは何か? 41
 日本社会の中央集権と職階制――科学界も例外ではない 45
 この研究について 48
 日本は世界の科学のリーダーとなれるのか? 53

第2章:大学の現状 55

 講座のメンバーとその役割 55
 研究費とクレジットの配分に見る講座の階層構造 56
 職階制の下での研究 58
 身分保証はキャリアを保証しない 60
 問題だらけのポスト補充 62
 アメリカではどうなのか? 63
 研究者募集の狭き門 66
 教授に逆らえば就職は望み薄 69
 中身のない履歴書 71
 大学院教育は徒弟制度さながら 74
 医学部の医局をのぞいて見ると 76
 医学部就職はいっそう狭き門 79
 教授の思惑に翻弄される助手のキャリア 80
 医学部における基礎研究キャリアの実像 82
 上下関係に支配される医局の研修 84
 研究者が差別される医学部 85
 同じ医学部でも雲泥の差 88
 独裁的権力による医学部支配の弊害 89
 科研費――灰色の審査基準 91

第3章:政府直属の研究機関 97

 応用研究の使命を担う食品総合研究所 97
 基礎研究への足がかりはあるものの 100
 財政上の制約 103
 採用事情 195
 研究室長の権限 107
 研究に立ちはだかる地方転出の壁 108
 年功序列と業績評価の問題 110
 キャリアと創造性をむしばむ官僚主義 114

第4章:蛋白工学研究所 117

 タンパク工学の実情 118
 PERI設立の経緯とその規模 119
 組織構成と部門 121
 論文こそが業績評価の基準 122
 大学研究員――なぜ大学からPERIなのか? 123
 企業「命令」による研究員派遣 126
 企業派遣研究員の事情 127
 研究テーマの設定 130
 自由になりきれない大学研究員たち 132
 企業研究員は大半が修士――修士と博士の落差 133
 民間企業の博士たち 134
 産業界の取り組み――自家製博士を育てよ 136
 PERIと企業のスタイルのギャップ 138
 会社組織を離れて 140
 研究をめぐる異文化間コミュニケーション 142
 「玉虫」を評価する 145
 籐博幸 147
 政府主導が残した負の遺産 154

第5章:大阪バイオサイエンス研究所と新たなキャリア・パターン 157

 基礎研究に注ぎ込まれる豊富な資源 157
 小さな屋台で大きな改革を目指す 159
 採用の現実 161
 OBIの魅力 165
 ハードワークを促すOBIの雰囲気 167
 基礎科学のキャリアには犠牲が付き物 171
 年度評価の役割 175
 OBIの後にくるもの 176
 1998年のOBI――完全流動化には至らず 179
 業績 181
 近江谷克裕 183

第6章:OBIに科学者と官僚の関係を見る 191

 地方開発の思惑とOBI 192
 幸運も重なって設立へ 194
 出資をしぶる企業 195
 大物の重要性 196
 市の職員たち 197
 いがみあう研究員と市職員 200
 あちらこちらに統制の目が光る 203
 研究者と市職員の距離 205
 国家レベルの問題の縮図 207
 官僚主義的管理の典型的症状 212
 外国人の待遇 216
 官僚が握る助成金と特権 221
 非営利民間センターと政府の癒着 222
 有効な配分システムを作り出すために財団も懐をあかせ 224
 官僚の階層構造に組み込まれる研究者 225
 研究者たちの憤り 226
 縦割り行政下のライフサイエンス・プログラム 230
 研究組織救済の処方箋 231
 OBIは生き続ける 232

第7章:性 235

 ライフサイエンスへの女性参加 235
 女性=臨時雇い 238
 姓が変わるハンデ 240
 研究キャリアへと続く薬学の橋 242
 資格を武器に 243
 OBIとPERIの技術助手たち――あいまいな職業とキャリアの境界線 244
 研究を続ける強い意志 248
 野村みどり 249
 すべてをつかむか,潔く手放すか 254
 男性生物科学者の態度 256
 女性自身が論じる女性の能力 260
 夜に言う「男女差」に根拠はあるか? 261
 体力 264
 女性の地位向上の見通し 265
 民法への反乱 267
 日本科学界は女性のニーズに応えられるか? 268

第8章:変革をはばむもの 271

 不満を抱える科学者たち 271
 世間一般の声 277
 漸進的改革――だが政府は本当に科学者のニーズを理解しているのか? 278
 労働力の流動化傾向 280
 流動性だけでよいのか? 283
 さらなる流動化を受け入れる条件 284
 改革の懲罰的色彩,そして反動の可能性 286
 組合の存在 288
 サポートシステムの袋小路 289
 公募への抵抗 291
 徹底的改革とはどんなものか? 293
 不滅の官僚支配と執拗な抵抗 295
 優れた科学は本当に必要とされているのか? 296
 大学を見れば何が優先かがわかる 297
 創造的な研究力なしに今後の国際経済競争は生き残れない 298
 既存の地位に落ち着くか,借用するか,本気で科学にてこ入れするか 301

第9勝:日本人は特別なのか? 305

 集団を重んじ,礼儀正しく,消極的な日本人 305
 消極性は原因ではない,結果である 307
 ユーモアに乏しい実験室 309
 国民性原因説の魔力 312
 宗教原因論者 313
 日本人の労働観とは? 315
 歴史的に見ると 320
 借用vs創造の力学 322
 ヨーロッパからの距離の悲しい代償 324
 地理的制約からの解放 325
 言葉の壁 328
 科学者の胸にくすぶる憤懣 333
 いま一つの悩みの種――オリジナリティの危機 337
 被害者意識をはね返せ 339

付録 343

・付録1:研究方法と状況の簡単な説明 344
・付録2:PERIの部門構成,およびPERI(1986〜96)とBERI(1996〜)の参加企業 348
最新インタビュー――2002年のジャパニーズ・サイエンス概観(市原加奈子) 351
・早石 修:OBI設立当時のチャレンジはいまも続く 353
・中西香爾:国内的にも国際的にも,日本の研究室が人材流動の袋小路になりやすい理由 366
・新井賢一:独立した個人を基本単位とするシステムへ抜本的な改革を 377
参考文献 i-xi