『Self-Organization in Biological Systems』

Scott Camazine, Jean-Louis Deneubourg, Nigel R. Franks, James Sneyd, Guy Theraulaz, and Eric Bonabeau

(2001年4月1日刊行,Princeton University PressISBN:0691012113 [hbk] / ISBN:0691116245 [pbk]→目次

スコット・カマジン他(松本忠夫・三中信宏訳)『生物システムにおける自己組織化』(2007年 2008年秋刊行予定,海游舎)

きわめて長期にわたって苦闘してきたが,ようやくカマジン本の最終章(第21章)のチェックを終了した.この章はゲラのすべてのページが隙き間なく「朱」の呪文で埋めつくされ,さながら“耳なし芳一”のようになった.もちろん“耳”も怠りなくチェックしたので,遺漏はないはず.下訳の文章の生存率はかぎりなくゼロに近い(文章適応度が低いための当然の結末だ).結果的に,(他の章よりも高率に)地べたからの訳し直しをしたことになる.

 

本書全体の総括である最終章を訳していて強く感じるのは,「自己組織化」を標榜するこの本は,同時に「自己組織化」に対する批判の書でもあるということだ.誤解されないように付けたすと,本書の著者たちはつねに〈自己組織化では説明できない〉という一種の帰無仮説を念頭に置きつつ,対立仮説群(blue-print仮説やスティグマジー仮説など)との対比のもとに自己組織化仮説のよしあしを判定しようとしている.時として歯がゆくなるほど慎重な姿勢を崩さない点で,Stuart Kauffman(1993)のような鼻息の荒さ,あるいは一般書として出ている他の自己組織化本に見られる勇み足とは一線を画するといえる.

 

著者たちは現状では自己組織化を経験的仮説としてテストするだけのデータが質・量ともにまだまだ不十分であると述べる.そして,今後どのような実験を組めばいいのかという指針が,具体的な事例を通じて読者に提示される.「自己組織化」という仮説のもつ潜在的能力を評価しつつも,けっしてそれに心酔していないことが読者にはきっとよくわかるだろう.何よりも,自己組織化を自然淘汰理論に代わる対立理論と位置づけようと目指す Kauffman 的なスローガンをはっきりと否定していることは,現代進化理論の中での自己組織化プロセスの適切な位置付けを論議する上で生産的な姿勢ではないだろうか.

 

今回の翻訳話が持ち込まれたのは2005年10月6日のことだった.あまりの分量に半年ほど放置してしまったこともあったので(ちょうど現代新書『系統樹思考の世界』の執筆とも重なる時期だったので),実質的には1年ほどで翻訳作業を終えたことになる.

 

とにもかくにも,てっぺんまで登ってしまったので,あとは下山あるのみ.図版のキャプションと索引づくりが残された大きな作業だ.膨大な文献リストにはすでに邦訳のある書物も含まれているのでその確認が必要だろう.その進捗によって,翻訳出版の時期が決まるが,とてもうまくいけば8月末の進化学会京都大会に間に合うらしい.9月の昆虫学会神戸大会が妥当な線かな.さらにずれ込んで,10月の行動学会岡山大会で初顔見世なんてことにはなりたくないなあ…….

 

−−と書いてからもう一年以上が過ぎている.今年の秋の学会シーズンには必ず店頭に並べる予定.現在,二校ゲラのチェック中.[2008年7月28日追記]