『Comparative studies on the behaviour of the Anatinæ』

Konrad Lorenz

(刊行年不詳[1953年以降?], Reprinted from the Avicultural Magazine, 87 pp., The Avicultural Society, London)

地球は想像以上に小さくなってしまったのだろうか.つい一昨日オンライン発注した古書がドイツから速攻で届いてしまった.カモ亜科(Anatinae)の比較行動に関する Konrad Lorenz の連載翻訳論文:Konrad Lorenz (1953), Comparative studies on the behaviour of the Anatinae. Avicultural Magazine, 57:157-182 (1951), 58:1-17, 61-72, 86-93, 172-183 (1952)をまとめたもの.「本」としての出版年は不祥だが,雑誌連載が「1951〜52年」であることは確定しているので,版元の学会があとで別刷としてまとめて出版したのだろう.ソフトカバー製本されている.届いた本の前所有者は,アメリカの著名な動物行動学者 Daniel S. Lehrman で,彼の蔵書印が押されている.Avicultural Magazine という雑誌は,どこかの「鳥」の研究室なら片隅にありそうなものだが,国内にはほとんど公的所蔵されていないようだ.

本書の p. 80 以降の「Summary」を読むと,行動形質からの共有派生形質に基づく系統推定の方針が詳しく解説されている.行動形質状態の原始性・派生性を見極めた上での系統樹の段階的構築の手順が示されている.「分岐学的」方法がここでもまた“独立に”提示されていることが分かる.ローレンツの系統推定法に最初に関心をもったのは,Robin Craw の分岐学史の論文:Robin C. Craw (1992), Margins of cladistics: Identity, difference and place in the emergence of phylogenetic systematics 1864-1975. Pp.65-107 in: P. Griffiths (ed.), Trees of Life: Essays in Philosophy of Biology. Kluwer, Dordrecht だった.植物学者 Walther Zimmermann とともに,ローレンツが分岐学の先駆者のひとりとして挙げられていた.

この英訳連載のもとになった長文の独語論文:Konrad Lorenz (1941), Vergleichende Bewegungsstudien an Anatinen. Journal für Ornithologie, 89: 194-293 が分岐学的方法の先駆とされる論文だ.これについてもさらに情報が得られた.第二次世界大戦の戦火が激しくなってきたころに発行されたせいか,この第二次世界大戦末期にローレンツがソヴィエトに抑留されていたころにまとめた『ロシア草稿』:Konrad Lorenz[Agnes von Cranach 編/Robert D. Martin 訳]『The Natural Science of the Human Species: An Introduction to Comparative Behavioral Research - The "Russian Manuscript" (1944-1948)』.(1996年刊行, The MIT Press, Cambridge, xliv+337pp., ISBN:0262121905書評)の中にある脊椎動物系統樹(p. 107, fig. 2)もまた,1941年の系統樹スタイル,すなわち共有派生形質にもとづいて複数の系譜(lineage)を“束ねる”というスタイルに則って描かれていた.