『華国風味』

青木正

1984年5月16日刊行,岩波書店岩波文庫・青165-1],東京,238 pp., ISBN:4-00-331651-7版元ページ

餠・団子・饂飩など日本の食生活に深く入り込んでいる食べ物や食文化の中国でのルーツをたどる本.たとえば,「饂飩の歴史」では,餠の系譜から派生した饂飩の来歴を披露した上で,著者はこう述べる:「すべて物事は発達するに従って種々の分化を生じ,それらが次々に分離独立して繁栄していくが,餅においてもまたこの現象を観たのである」(p. 79).著者は,中国側の錯綜した系譜を溢れまくりの教養と典拠をひもとくことで,食べ物と食文化の系統発生に光を当てようとする.「用匙喫飯考」では,中国における匙と箸のルーツをたどり,「末茶源流」では,本家の中国で廃れてしまった茶の淹れ方が日本ではいまも残存していると論じる.第二次世界大戦の戦火の中で「空樽を抱いて陶然の旧夢を尋ぬる者」を自認する著者は,架空の居酒屋をこの上もなくリアルに描いた「陶然亭」を書き残す.実に十ページにも及ぶこの “陶然亭” の酒食メニューは隅から隅まで隙がない.戦中戦後にかけて,巷では食うや食わずの生活が続いていた時期に,実生活の窮乏とは裏腹に,中国の豊かな食文化とその歴史をいつも考え続けた著者はケタ違いの食いしんぼかはたまた呑んべか.かの坂口謹一郎が一目置いたのも当然のことだろう.『華国風味』というさりげないタイトルからは想像できないほど,呑み喰いの深奥を覗きこむような内容.本書を読了したからには,次は同じ著者による:青木正児『酒の肴・抱樽酒話』(1989年6月16日刊行,岩波書店岩波文庫・青165-2],東京,238 pp., ISBN:4-00-331652-5版元ページ)をひもとくしかない.

【目次】
自序 3
粉食小史 9
愛餠の説 39
愛餠余話 50
饂飩の歴史 65
落雁と白雪餻 80
用匙喫飯考 101
花彫 114
末茶源流 129
焼筍 153
◆菜譜[◆=「酉」編+「庵」旁] 166


附録
 陶然亭 178
 花甲寿菜単 215


解説[戸川芳郎] 225