『精進百撰』

水上勉

(2001年1月16日刊行,岩波書店岩波現代文庫・文芸25],東京,iv+218 pp., ISBN:4-00-602025-2版元ページ

著者が心筋梗塞で倒れたあとの料理ライフ.前著『土を喰らう日々』は軽井沢,本書は佐久の里山にて書かれた.全三部構成.「前書 典座修行」と「後書 東坡羹」にはさまれた「本篇 蔬食三昧」がレシピ集.カラー写真とともに精進料理のレシピが.相国寺流.大根を味噌汁で煮るわざを知った.同じ病人でも,『仰臥漫録』や『病牀六尺』の正岡子規は「食」の妄念の鬼と化していて取り憑かれそう.水上勉はなかば諦観の境地に達しているようで,淡々と日々の食を綴る.もうひとつ,武満徹の病床レシピ集『サイレント・ガーデン:滞院報告・キャロティンの祭典』(新潮社)はこれまた別個の味わいがある.三人三様,スタイルはさまざまだが,共通して「いまこれを食べなければ」という気合がこめられている.台所に立つ筆者の姿はそこはかとなく P. K. Feyerabend の厨房姿に似ていた.