『贖罪のヨーロッパ:中世修道院の祈りと書物』

佐藤彰一
(2016年11月25日刊行,中央公論新社中公新書2409],東京, 4 color plates + xii + 286 pp., ISBN:978-4-12-102409-1目次版元ページ

5〜12世紀の中世ヨーロッパ修道院史.目撃したかのような詳細な記述が新鮮だ.第5章「修道院の経済活動」では中世の修道院がどのようにして財力を蓄え,写本制作などの文化活動を支えてきたかを論じて興味深い.第6章にある鞣皮紙写本の製作法:「一巻で五一五頭の仔牛を屠らなければならなかった」「総計で一五〇〇頭を超える数の仔牛の皮が使われたことになる」(p.156)― そりゃあ高価な財産になるはずだ.「活発な造本活動をおこなった書写室をそなえた修道院は,広大な所領に料紙を提供してくれる羊や牛を,常時しかも大量に飼育していなければならなかった」(p.156)― 中世の修道院は経済主体として有力であるばかりではなく,畜産業を差配する牧場主でもあったと.書体に関しては,8世紀半ばにアンシアル書体からカロリング小文字書体への移行が生じたと書かれている(pp.158〜).すかさずスタン・ナイト[髙宮利行訳]『西洋書体の歴史:古典時代からルネサンス』(2001年4月25日刊行,慶應義塾大学出版会,東京,118 pp., 本体価格6,500円,ISBN:4-7664-0834-9版元ページ)を “森” の書庫から引っ張り出して確認.そーかそーか.続く第7章では,ラテン語の速記法(「ティロー式速記」)についても言及されている(pp. 175-6).