『動物と人間:関係史の生物学』登攀記録(2019年1月〜2月)

三浦慎悟
(2018年12月5日刊行,東京大学出版会,東京, xvi+821 pp., 本体価格20,000円, ISBN:978-4-13-060232-7目次版元ページ読売新聞書評[2019年2月24日]

    ◆[2019年1月28日(月)]大手町の読売新聞読書委員会でも白状したように,本書の登攀は南米アコンカグアの登頂に匹敵する大仕事ではないかと.
  • [つくば]登攀開始の昼下がり.11/821だん.まだまだ準備運動ですな. posted at 13:07:36
  • [つくば]37/821だん.メガファウナ絶滅要因としてのヒトによる「オーバーキル仮説」論議. posted at 14:30:18
  • [つくば]46/821だん.初期人類の狩猟法の変遷. posted at 15:11:06
  • [つくば]61/821だん.最初の家畜であるイヌについて.ここまでが第1章.先は長すぎる. posted at 15:26:06
  • [つくば]第2章に入る.82/821だん.家畜化総論. posted at 16:15:42

  • ◆[2019年1月29日(火)]
  • [つくば]86/821だん.家畜に向く動物は何か? 必須条件はいくつもある. posted at 12:00:47
  • [つくば]91/821だん.アナトリア高原での家畜化の起源.ヤギ・ヒツジ→ウシ→ブタの順にBP1.1万〜9千年に農耕の副産物として家畜化成立. posted at 12:20:38

  • ◆[2019年1月30日(水)]まだ “山” の裾野をうろうろしている
  • [つくば]95/821だん.農耕と家畜化に加えて搾乳による乳製品利用も同時に始まったと著者は推測する.生乳に対する乳糖不耐性に対する自然淘汰.チーズ及びヨーグルトの利用へ. posted at 12:30:09
  • [つくば]99/821だん.家畜としてのネコ問題.なぜ奴らはヒトとわざわざ共存するようになったのか.「ネコは,ネコ以上でもネコ以下でもなく,たんたんとネコであり続けてきた」(p. 98)というネコの “矜持” が絶妙な共生関係をもたらしたと著者は力説する. posted at 12:33:24
  • [つくば]102/821だん.人畜共通伝染病のルーツ.いつも家畜からヒトに病原菌が移ってきたとはかぎらない.ヒトから家畜への逆コースもあり得たのではないかとの推測. posted at 12:40:22
  • [つくば]104/821だん.現在の家畜の「有効集団サイズ(Ne)」は驚くほど小さい.数百万頭レベルで飼育されているホルスタイン牛てあってもその有効集団サイズはなんと「数十頭」であり,個体群としての存続すらおぼつかないレベルに落ち込んでいる. posted at 12:48:30
  • [つくば]107/821だん.今では家畜として扱われているミツバチはほんとうに家畜化されたと言えるのか.その繁殖様式にまったく介入できていないことから見ても,真の家畜とは言えないだろう.以上で,第2章読了. posted at 12:54:03
  • [つくば]第3章へ.121/821だん.アナトリアからの農畜融合文化の伝搬をたどる. posted at 13:11:18
  • [つくば]第3章へ.128/821だん.遺伝子と言語から見た農畜文化のヨーロッパ伝播経路の推定. posted at 15:20:47
  • [つくば]第3章へ.139/821だん.ヨーロッパでのヒト集団の形質人類学.新石器時代における自然淘汰と性淘汰による急速な遺伝的分化. posted at 15:34:26
  • [つくば]148/821だん.ウマの家畜化はいかにして成功したのか.最初に野生馬に飛びついた勇者に栄誉を. posted at 15:49:46
  • [つくば]157/821だん.新石器時代から青銅器時代のヨーロッパを蹂躙した遊牧騎馬民族クルガンについて.第3章はここまで. posted at 16:05:10

  • ◆[2019年1月31日(木)]そして山登りに一日も休みなし
  • [つくば]第4章へ.172/821だん.鉄器時代に成立したケルト文化での動物と人間との関係について. posted at 12:02:47
  • [つくば]176/821だん.古代ヨーロッパの動物観の基層を形成したケルト多神教と東方遊牧民文化との混淆. posted at 12:28:16
  • [つくば]178/821だん.農畜融合文化の自然への影響が拡大する. posted at 12:35:38
  • [つくば]197/821だん.古代ギリシャからローマ帝国へ.動物と人間との関わりを示唆する文字資料がどんどん増えてきた.第4章は以上. posted at 13:02:28

  • ◆[2019年2月2日(土)]
  • [つくば]第5章へ.212/821だん.中世ヨーロッパの食事情はきわめて劣悪で,作物と家畜の生産性はとても低く,いつも飢餓の危機にあった.生産性の低さを大規模開墾によって補おうとしたため,ヨーロッパの自然環境への圧力はきわめて高く,野生動植物の個体数と多様度は急減. posted at 11:51:15
  • [つくば]224/821だん.狩猟の起源.鷹狩りは鳥類学を生み,シカやイノシシ狩りは領主の特権的娯楽となった. posted at 12:12:36
  • [つくば]226/821だん.中性子歯医者階級の「鹿狩り」の大流行は狩猟エリアとしての排他的な「鹿園(ディア・パーク)」を設置するまでになる.このディア・パークが後の「動物園」のルーツとなる. posted at 12:20:45
  • [つくば]227/821だん.森林管理は猟場管理に始まる.とくに,ブタを森林放牧してドングリで肥育する手法が広まった.「ブタは肥るよ.トントン拍子に」(p. 226).その一方で,ブタだけでなく,ウシ・ヤギ・ヒツジを過放牧したことによる環境への影響は無視できなくなった. posted at 12:25:07
  • [つくば]233/821だん.中世の食生活は貴族階級の徹底的肉食と庶民階級の必然的ベジタリアンの格差が大きかった.キリスト教が広まってからも支配者層の肉食文化は変わらなかった.彼らは「肉食系の大食漢ぞろいだった」(p. 228). posted at 12:41:38
  • [つくば]241/821だん.キリスト教の教義のもとでの動物と人間の関係について.神>人間>動物という階層は厳然としてあるが,キリスト教そのものが菜食主義という解釈はまちがい.ちゃんと肉を食っていた.ブタだけが遠ざけられたのは寄生虫の巣窟だったから.「君子ブタに近寄らず」(p. 238). posted at 12:56:46
  • [つくば]247/821だん.中世の有名な「動物裁判」について.人間と同様の “裁判” を動物に対して行なったのは,既存の「動物-人間関係」をキリスト教の教義で再規定するための重要な儀式だったからだろう(p. 246).動物裁判は動物にではなく人間にキリスト教秩序を教育する絶好の機会だった. posted at 13:11:03
  • [つくば]続)ヒル(蛭)が1451年にキリスト教から “破門” されていたことを知った:「おまえ[ヒル]たちがすべての場所から消え去るまで,おまえとおまえの子孫は呪われるであろう」(p. 245) posted at 13:14:24
  • [つくば]続)そういえば,昔々,池上俊一動物裁判:西欧中世・正義のコスモス』(1990年9月,講談社現代新書・1019 bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0… )を読んだことを思い出した. posted at 13:23:36
  • [つくば]255/821だん.続いて魔女裁判へ.魔女狩りが吹き荒れた16〜17世紀は特定の動物たちも迫害された.その筆頭がネコだった.理由は明白で,「自分本位で自由気まま,人間を無視するような横柄な行動,「人間に服従すべき被造物」とのキリスト教原則から外れていたこと」(p. 254). posted at 13:45:45
  • [つくば]続)ところが,キリスト教社会がネコを排除した報いが人間に降りかかる.捕食者がいなくなってネズミがノミとペスト菌とともに凱旋してきたので,黒死病の蔓延となった.「ネコの絶滅を呼びかけた教皇をはじめとする教会関係者は,ベスト拡大の推進者として記憶されてよい」(p. 255). posted at 13:54:27
  • [つくば]262/821だん.ネコ以外にもヘビ・コウモリ・フクロウ・ヒキガエルサンショウウオキリスト教的には「忌まわしい動物たち」とされ迫害を受けた.魔女裁判や動物迫害は古層の多神教世界観を一神教に強制的に方向づける運動だったのだろう(p. 262). posted at 14:05:52
  • [つくば]270/821だん.オオカミと人間との対決史.第5章は以上. posted at 14:20:00

  • ◆[2019年2月4日(月)]
  • [つくば]第6章に入った.290/821だん.氷河期レフュージアであるスカンジナビアサーミ人ピレネー山脈バスク人が登場.まずはサーミ人とその末裔が高緯度地方でトナカイやセイウチとどのような関係にあったか.所有権がはっきりしているトナカイは家畜とはみなせないらしい. posted at 12:02:00
  • [つくば]302/821だん.衣服の起源とその素材を提供した動物との関わり.亜麻と木綿などの食物繊維と並び,動物由来の皮革や繊維が衣服に用いられた.まずは羊毛.イスラム圏では肥尾種のヒツジの羊毛が絨毯の素材として重宝されたとのこと. posted at 12:56:11
  • [つくば]317/821だん.中世ヨーロッパの毛皮交易について.毛皮の「なめし」技術の進展とハンザ同盟の商業ネットワークが相まって,毛皮交易はさかんになった.その一方で,ビーヴァー.カワウソ・ミンクそしてリスなど良質の皮をもつ小型哺乳類は徹底的に狩り尽くされた.第6章はここまで. posted at 13:39:22

  • ◆[2019年2月5日(火)]山登りに休みなし
  • [つくば]第7章へ.337/821だん.イベリア半島産のメリノ種の羊の話.スペインを経済的に支えたこの “羊毛産出マシン” がヨーロッパ全域に及ぼしたさまざまな影響を論じる. posted at 11:13:20
  • [つくば]345/821だん.香辛料の交易.スパイスもアルコールもその殺菌作用がヒトの嗜好を強化した. posted at 11:35:10

  • ◆[2019年2月6日(水)]小人閑居して濫読をなす.
  • [つくば]349/821だん.16世紀以降の大航海時代がもたらしたスパイス戦争に付随する野生動物の人為的絶滅.モーリシャスドードーなど鳥類,そしてゾウガメ類にとっての災厄. posted at 09:35:25
  • [つくば]358/821だん.ハンザ同盟時代に続くオランダ・イギリスでの大規模なニシン漁がニシン個体群動態に及ぼした「漁業誘発進化」(p. 357)について. posted at 09:48:04
  • [つくば]366/821だん.バスク民族に始まる商業捕鯨の誕生.西欧列強による大規模捕鯨により,とりわけホッキョククジラは急速に個体数を減らしていった. posted at 10:01:51
  • [つくば]371/821だん.ニシンとクジラに続いて,タラもまた大規模漁業による徹底的な人為淘汰を受け,資源量が崩壊するにいたった.その巻き添えを食って,北米のオオウミガラスも絶滅に追い込まれた. posted at 10:13:57
  • [つくば]376/821だん.キリスト教的世界観が自然界の収奪を当然のこととした.「自然物と動植物の有限性の無視」「被造物は所有物であるとの誤解」「簒奪への心理バリアの欠如」.第7章はここまで. posted at 10:27:29
  • [つくば]第8章へ.397/821だん.モンゴロイドベーリング地峡で新大陸に移住し,一千年の間に南アメリカ南端まで拡散した.南米ではラクダ類の家畜化が進み,ヴィクーニャからアルパカが,グアナコからリャマがそれぞれ家畜化された.このラクダの「糞場」がジャガイモ原種の故郷だった. posted at 10:50:45
  • [つくば]399/821だん.アンデスでのクイからモルモットへの家畜化はネズミを家畜とするという点で稀有の事例だった.その家畜化の目的は,食肉用というよりは,むしろジャガイモを栽培するための糞を生産する「肥料用家畜」(p. 399)とみなされている. posted at 10:59:00
  • [つくば]406/821だん.中米のメソアメリカ文明におけるテオシントからトウモロコシへの育種について.※ここまででやっと “五合目” に到達した.頂上まであと半分. posted at 11:10:38

  • ◆[2019年2月7日(木)]今日も朝から山登り
  • [つくば]419/821だん.16世紀以降の北米先住民とヨーロッパ移住者とのビーヴァー毛皮交易.ビーヴァー利権をめぐる民族間抗争へと発展し,18世紀には長年にわたるビーヴァー乱獲による個体数の激減をもたらした. posted at 09:43:46
  • [つくば]430/821だん.17世紀の帝政ロシアによるシベリア支配は主としてクロテン毛皮の現物税徴収を前提に成立していた.クロテンを含むシベリア産イタチ類は根こそぎにされてしまい,次なる経済動物として標的となったのが北太平洋岸のラッコの毛皮だった. posted at 10:08:57
  • [つくば]433/821だん.ラッコ乱獲による海洋生態系の撹乱.ラッコ個体数の激減は被食者ウニの個体数増加をもたらし,ウニが食べるジャイアントケルプ群落の衰退につながった.このケルプを主食としたステラーカイギュウの絶滅の原因は必ずしも人為的とはかぎらなかったかもしれない.第8章は以上. posted at 10:20:04
  • [つくば]第9章へ.448/821だん.18世紀イギリスにおける博物学ブームに連動する,女性ファッションの流行が世界中の鳥類の存続に与えた大きな影響.鳥の羽をあしらった帽子が19世紀に大流行したために,東南アジアや中南米熱帯の美麗な鳥類が捕り尽くされてしまった. posted at 10:41:51
  • [つくば]456/821だん.19世紀イギリスにおける家畜育種法の進展について.ウマ(サラブレッドとポニー)・ウシ・ヒツジ・ブタ. posted at 11:03:05
  • [つくば]461/821だん.19世紀イギリスでの愛玩動物の大規模な品種改良.イヌの育種は社会的大流行となり「犬闘課題」(p. 458)が次から次へと.また,中世にはあれほど忌み嫌われたネコちゃんは一転してアイドルに転身.「俄然,風向きが変わった.いい加減なのだ.人の気持ちは」(p. 460). posted at 11:19:37
  • [つくば]464/821だん.同じくイギリスでの鳥類愛好家たち.ハトの大ブームはチャールズ・ダーウィンをも巻き込んだが,同時代にはセキセイインコカナリアもせっせと品種改良された. posted at 11:25:31
  • [つくば]486/821だん.近代博物学分類学の進展.植物園・動物園と博物館を支えた蒐集熱のかぎりない高まり. posted at 11:54:02
  • [つくば]498/821だん.イギリス下層社会における動物に対する娯楽的虐待.「ねずみ掛け」ゲームに用いられたドブネズミが家畜化され,そのアルビノ系統からのちの実験動物である「ホワイトラット」がつくられた.また,闘鶏ゲームの用語「スパーリング」はのちに同義のボクシング用語に転用された. posted at 12:09:11
  • [つくば]510/821だん.動物虐待から動物愛護へと一転した19世紀イギリスの時代背景について.第9章は以上. posted at 13:27:29

  • ◆[2019年2月10日(日)]雪降る前に観音台から搬出してきた “アコンカグア” 山だったが,昨日は軟骨ソーキのお世話に明け暮れて,一歩も登攀できなかった.次なる第10章に進撃するぞ.
  • [つくば]第10章544/821だん.17世紀以降の北米大陸に押し寄せた入植民は先住民への侵略とともに,野生動物への大きな脅威となった.オジロジカ,バイソン,プレーリードッグハイイロオオカミ,そしてリョコウバトなどの “絶滅物語” は動物生態学の観点から再検討する必要がある. posted at 11:27:02
  • [つくば]第10章559/821だん.大捕鯨国たるアメリカが18世紀から19世紀にかけて,巨大な「鯨油産業」を発展させ,ヒゲクジラの鯨皮とマッコウクジラの脳油を求めて捕りまくった歴史.日本もまた捕鯨の標的漁場となった.マッコウクジラの脳油によるエコロケーションシステムが精緻すぎる. posted at 12:31:05
  • [つくば]第10章579/821だん.アメリカでの自然保護主義の対立と進展.「利用のための保全」vs.「尊厳を守るための保存」をめぐる19世紀の論争について. posted at 13:03:14
  • [つくば]596/821だん.1973年制定のアメリカ「絶滅危機法」の精神について.「アメリカの自然保護と野生動物管理は,合理主義と非合理主義という両極の思想の共存によって支えられている」「だが,北米の制度や原理は,はたしてグローバル・スタンダードだろうか」(p. 595).第10章は以上. posted at 13:30:55
  • [つくば]第11章へ進撃.632/821だん.アフリカ大陸における旧宗主国のハンティング熱が動物保護政策と保護地域設定に及ぼした大きな影響いろいろ. posted at 16:53:33
  • [つくば]650/821だん.ドイツにおける環境運動と動物保護の理念.エルンスト・ヘッケルの時代からつながるロマン主義科学と全体論生物学の根強い影響力.第11章は以上. posted at 17:49:49
  • [つくば]第12章へ.701/821だん.日本の捕鯨の歴史と現在にいたる水産資源管理の問題点を提起する.「日本はクジラ類の資源管理においてけっして誠実ではなかった」(p. 686);「生物資源の現状とその保全・管理と正面から向き合うことのない水産庁の姿勢がみてとれる」(p. 701). posted at 22:48:22

  • ◆[2019年2月11日(月)]登頂への一直線
  • [つくば]723/821だん.アメリカにおける環境倫理学の系譜をたどり,動物権利論・自然権利論をめぐる論議が現在とどのようにつながるのかを概観する.第12章は以上. posted at 10:29:46
  • [つくば]終章782/821だん.現代社会における生物多様性環境政策の変遷と論議環境経済学の重要性を強調:「地球上の環境問題の本質は,けっきょくは富の分配と社会的公正にかかわる問題に起因している」(p. 782).終章は以上. posted at 11:12:33
  • [つくば]結びの「おわりに」読了.「動物たちの無数の足跡は人間の悠久の歴史のなかに溶解し,汲めども尽きないのだ.動物と人間との結びつきがこれほど深く多様だったのか,あらためて思い知らされた.しかし同時に,これほどおもしろく,刺激に満ち,興奮させられた作業もまたなかった」(p. 791) posted at 11:17:58
  • [つくば]以上をもって:三浦慎悟『動物と人間:関係史の生物学』(2018年12月,東京大学出版会 www.utp.or.jp/book/b378015.h… )の登攀成就.動物目線から見た人類史の大きな “物語” の大河を堪能した. posted at 11:20:12
  • [つくば]これで安心して次回の読書委員会に “アコンカグア” 登頂報告と大評原稿を出すことができる. posted at 11:23:38