『読む・打つ・書く』書評拾い(49)

三中信宏
(2021年6月15日第1刷刊行|2021年10月5日第2刷刊行,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5コンパニオン・サイト版元ページ

『言葉の周圏分布考』目次

松本修
(2022年4月12日刊行,集英社インターナショナル[インターナショナル新書・099],東京, 301 pp., 本体価格1,300円, ISBN:978-4-7976-8099-7版元ページ

30年前の第一作:松本修全国アホ・バカ分布考:はるかなる言葉の旅路』(1993年8月5日刊行,太田書店,東京, 446 pp.+カラー折込図版1葉, ISBN:4-87233-116-8),そして数年前の第二作:松本修全国マン・チン分布考』(2018年10月10日刊行,集英社インターナショナル[インターナショナル新書・030],東京, カラー折込図版2葉+365 pp., 本体価格1,100円, ISBN:978-4-7976-8030-0目次版元ページ)に続く方言周圏論の最新刊.カラー図版いっぱい.


【目次】
はじめに 言葉は旅する 3
序章 「好き」を表す日本語は「好き」だけか? 15
第1章 御所から広まる高貴なことば 33
第2章 紫式部さん、あなたは『源氏物語』の中で、「戻る」を使いましたか? 65
第3章 琉球のことばが浮かび上がらせる日本語の原像 127
第4章 豊かな方言の時代を生きてきた 183
第5章 『蝸牛考』の原点へ 223
結びの章 時空を超えて 255

 

あとがき 著者に代わって[小竹哲] 290
主要参考文献・資料 295

『読む・打つ・書く』書評拾い(48)

三中信宏
(2021年6月15日第1刷刊行|2021年10月5日第2刷刊行,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5コンパニオン・サイト版元ページ

『読書とは何か —— 知を捕らえる15の技術』一期一会の読書術(21)

三中信宏
(2022年1月30日刊行予定,河出書房新社河出新書・046],東京, 292 pp., 本体価格880円, ISBN:978-4-309-63147-9コンパニオンサイト目次版元ページ

『Index, A History of the: A Bookish Adventure』読書進捗(2)

Dennis Duncan
(2021年9月刊行,Allen Lane / Penguin Books, London, xii+340 pp., ISBN:978-0-241-37423-8 [hbk] → 目次版元ページ

第3章「Where Would We Be Without It? — The Miracle of the Page Number 」(pp. 85-112)では,冊子体の本の「ページ付け」について考察される.索引が各項目の “位置” のリストであるならば,その位置の標識となるのは “ページ” である(p. 88).中世から現代にいたるまで,紙の本ならばページが付けられる.これに対して現代のリフロー型の電子本では,たとえばキンドルの「loc#」のようなまったく別のロケーターが必要になる(p. 99).最初の索引は Johannes Gutenberg と同時代(15世紀)の Werner Rolevinck (p. 86)と Peter Schöffer だった(p. 102).冊子体におけるシートとページの関係(pp. 106-108)はとてもわかりやすい.

続く第4章「The Map or the Territory — The Index on Trial」(pp. 113-135)では,索引づくりの試行錯誤の歴史をたどる.索引のできがよければ,読書への時間の投資の可否を的確に判断できる(p. 117).索引を “読む” ことで,その本の全体的内容を把握できるだろう(p. 119).その索引はテクストではなくヴィジュアルに描かれた事例もある(p. 120).あえて,目次を付けないことをセールスポイントにした本もあった(p. 123).索引は本文の “後” に付けるものと現代の読者は先入観をもつが,逆に本文の “前” でもいいじゃないかと Conrad Gessner は考えたらしい(p. 128).索引の機能と形態がまだ不確定だった時代の話だ.

『ユリイカ2022年5月号・特集〈菌類の世界〉』

(2021年5月1日発行,青土社,東京, 342 pp., 本体価格1,700円, ISBN:978-4-7917-0416-3版元ページ

青土社らしい微小フォントで350ページにわたって活字が詰まっている.このゴールデンウィーク中に必ず読めという世界制覇を目論む “菌帝国” からのヒミツ指令にちがいない.

『天使突抜おぼえ帖』書評

通崎睦美
(2022年4月30日刊行,集英社インターナショナル,東京, 382 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-7976-7410-1目次版元ページ

【書評】※Copyright 2022 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

洛中定点観測半世紀

本書のカバージャケットをいったん外して,あらためて表紙と裏表紙のモノクロ写真から “天使突抜” の街の姿を想像してみるが,どこにでもありそうな京都洛中の街角だ.

 

ワタクシはいちおう「京都市生まれ」ではあるが,この本の舞台である “天使突抜” という場所は一度も行ったことがない. “ドンツキ” は知っていても “ツキヌケ” は覚えがない.ワタクシの知り合いの京都出身・在住者に訊いても,「そんなとこ知らん」と一言のもとに首を振られる.

 

ワタクシのような “よそさん” にとっては, “天使突抜” は,語感的にとてもインプレッシヴな地名ではあっても,場所的には京都やったらその辺にようある場所にしか見えない.しかし,洛中のこの場所に居を構えて半世紀あまり暮らしてきた著者は,彼女にしか語れない物語をつづる.

 

長く同じ場所に住むことである種の “定点観測” が可能になる.そこで観測されるものは, “定点” たる著者自身の自分史はもちろんのこと,ともに暮らしてきた家族の歴史,隣近所の人たちとのつながり,そして街そのものの過去から現在への変遷だ.居続けて初めてわかることがある.

 

三部構成の本書の構成は,思い出に去来する人たちを描いた「第一部 天使突抜の人々」,著者の個人史をたどる「第二部 記憶を紡ぐ」,そして文字通り〈カムカム通崎ファミリー〉な「第三部 通崎家の京都百年」だ.小さな町だからこそ,外からはけっして見えない濃密な歴史が息づく. “天使突抜” という街は京都の中に埋め込まれているので,歴史を掘り起こせばきりがない.著者は(ものもちがとても良い)通崎家に残されてきた物品や文書はもちろん,フットワーク軽く近在への聞き取りをしたり,新たな資料の発掘を踏まえて,この街の “ミクロヒストリー” を明らかにする.

 

著者の本業は木琴奏者だが,それ以外にもアンティーク着物コレクターという顔もある.本書を読み進むと,ときどき音楽界のビッグネームたちがひょこっと顔を出したり,今西錦司桑原武夫杉本秀太郎など著名人の名前がちらりと見えたりするのもまたおもしろい.

 

本書が読者に見せてくれる風景は,以前ワタクシが読んだ:鷲田清一[写真:鈴木理策]『京都の平熱:哲学者の都市案内』(2013年4月13日刊行,講談社講談社学術文庫・2167],東京,275 pp., ISBN:978-4-06-292167-1書評目次版元ページ)を髣髴とさせる.その鷲田も生まれ育ったのは近くだと著者は書いている.京都はものすご狭いなあ.

 

本書を読み終えて,あらためて同じ著者が地元の淡交社から出した:通崎睦美『天使突抜一丁目:着物と自転車と』(2002年12月4日刊行,淡交社,京都, 165 pp., 本体価格1,500円, ISBN:978-4-473-03728-2版元ページ)と通崎睦美『天使突抜367』(2011年3月14日刊行,淡交社,京都, 143 pp., 本体価格1,400円, ISBN:978-4-473-03728-2版元ページ)を本棚から引っ張ってきた.


—— 十年ごとに一冊出る “天使突抜本” .次の十年後は?

 

三中信宏(2022年5月3日公開)

『漢字ハカセ、研究者になる』書評

笹原宏之
(2022年3月18日刊行,岩波書店[岩波ジュニア新書・950],東京, xii+192 pp., 本体価格820円, ISBN:978-4-00-500950-3目次版元ページ

【書評】※Copyright 2022 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

メイキング・オブ・漢字ハカセ

本書『漢字ハカセ、研究者になる』は,その書名といい,ですます調のソフトな文体といい,てっきりジュニア読者層向けの「漢字本」かと思いこんで手にしたのだが,読了してみれば嬉しい方向に裏切られたことに気付かされる.本書は稀代の “漢字ハカセ” の「メイキング本」だったからだ.

 

もう15年も前になるが,著者の主著である:笹原宏之国字の位相と展開』(2007年3月31日刊行, 三省堂,東京,885+46 pp., 本体価格9,800円, ISBN:978-4-385-36263-2版元ページ)を読む機会があった.900ページを超える大著だったが, “国字” の起源と変遷そして地理的分布を考察した類書のない専門書だった.この本の「後記」にはおそるべき一文が書かれていた:

 

「思えば,些細な契機により小学生にして漢和辞典を眺める癖を覚えて音訳表記の抜き出しを始め,漢文を習わない段階で諸橋轍次先生の『大漢和辞典』を購入したのが中学生の時であり,高校に入ると杉本つとむ先生の『異体字研究資料集成』を揃え,それに触発され,種々の資料から国字を抜き出して辞書・索引のようなものを作り始めた.中国を中心に据えて漢字圏全体の漢字及び漢字系派生文字について学ぶことを志し,早稲田大学第一文学部に入ってからは中国文学専修に籍を置く」(p. 881).

 

この告白だけでもタダゴトではない.さらに,「序」に寄稿した野村雅昭は:

 

「世に,漢字少年や漢字博士と称される人は少なくない.しかし,その人が優れた漢字研究者になったと聞いたことはない.氏は,そのまれなる一人である」(p. vii)

 

とまで書いている.タダモノならざる著者の生い立ちがワタクシはとても気になった.

 

今回の新刊『漢字ハカセ、研究者になる』は,ワタクシが長年にわたって気になってきた疑問にみごとに答えてくれる自伝的な “メイキング本” だった.幼少の頃からの漢字と書物に対する執拗な “偏愛” ぶりは,読み終えて即座に「なんだ “同類” じゃないか」と深く納得した.そして安心した.

 

たとえば,分売不可であるはずの諸橋轍次大漢和辞典』の索引巻だけを書い直しに,まだ中学生だった著者が版元の大修館書店に “白い手袋” をして乗り込んだというエピソード(第3章, p. 46)は,のちに同社に入社した円満字二郎が耳にするほど “社内伝説化” していたという.これを “アンファン・テリブル” と言わずしてどうするのか.げにおそるべしおそるべし.

 

本書の想定読者層で漢字のプロ研究者になる率はきっと低いにちがいない.しかし,これくらいの “外れ値” (失礼)であっても,というか,桁外れの “外れ値” だからこそ,研究者として生きる道が拓けたというメッセージはワタクシにはとても説得力があった.ジュニア読者に向けられただけの本ではなかった.もちろん,著者が得意とする “漢字ネタ” はてんこ盛りで,ディテールにいたるまで読者をつかんで離さない.

 

漢字ハカセのご著書は,どういうわけだかすべてワタクシの書棚に勢揃いしている.せっかくの機会なので本書以外のものをリストしておこう:

 

  1. 笹原宏之日本の漢字』(2006年1月20日刊行,岩波書店岩波新書(新赤版)991], ISBN:4-00-430991-3書評目次版元ページ
  2. 笹原宏之国字の位相と展開』(2007年3月31日刊行, 三省堂,東京,885+46 pp., 本体価格9,800円, ISBN:978-4-385-36263-2書評概略目次第1部詳細目次第2部詳細目次第3部詳細目次版元ページ
  3. 笹原宏之訓読みのはなし:漢字文化圏の中の日本語』(2008年5月20日刊行,光文社[光文社新書352],274 pp.,本体価格820円,ISBN:978-4-334-034555-9 → 目次版元ページ
  4. 笹原宏之(編)『当て字・当て読み 漢字表現辞典』(2010年11月1日刊行,三省堂書店,東京,x+901 pp., 本体価格3,500円,ISBN:978-4-385-13720-9版元ページ
  5. 笹原宏之方言漢字』(2013年2月25日刊行,角川学芸出版角川選書・520],東京,253 pp., ISBN:978-4-04-703520-1版元ページ
  6. 笹原宏之謎の漢字:由来と変遷を調べてみれば』(2017年4月20日刊行,中央公論新社中公新書・2430],東京, x+226 pp., ISBN:978-4-12-102430-5書評版元ページ|web中公新書著者に聞く」)

 

三中信宏(2022年5月2日公開)

『漢字ハカセ、研究者になる』目次

笹原宏之
(2022年3月18日刊行,岩波書店[岩波ジュニア新書・950],東京, xii+192 pp., 本体価格820円, ISBN:978-4-00-500950-3版元ページ

昨日の都内出撃時に速攻完読してしまったということは,「書評を書け」という天の声か.


【目次】※「〓」はフォントがない漢字
はじめに iii

 

1 蛸と鮹──マンガのタコと辞典のタコ 1
2 秋桜と書いてコスモス──こんな当て字は許せない 19
3 〓、囍、靏──全一三巻『大漢和辞典』にもない漢字 37
4 脣から唇、膚から肌へ──当用漢字から常用漢字へ 57
5 早慶は〓〓?──大学生活で出会った漢字 83
6 〓──俗字や国字は、何かしっくりくる 101
7 腺、濹の追跡──個人文字の広がり 113
8 妛、腥──幽霊文字、人名用漢字と向き合う 127
9 粁、蛯──博士論文と北海道の蛯天丼 153
10 麺、混む──時代とともに「常用漢字」も変わる 171

 

おわりに 183

『動物行動学者、モモンガに怒られる:身近な野生動物たちとの共存を全力で考えた!』目次

小林朋道
(2022年5月15日刊行,山と溪谷社,東京, 300 pp., 本体価格1,750円, ISBN:978-4-635-06314-2版元ページ

奥付を見てもどっちがメインタイトルなのかサブタイトルなのか判別できなかったので,ワタクシ的に勝手に判断して並べました.


【目次】
はじめに 1
1.アカネズミは目をあけて眠る:「懸命に生きているんだなー」という思いが大切だ 17
2.動物行動学者、モモンガに怒られる:経済的利益と精神的利益が必要なのだ 47
3.スナヤツメを追って川人になる:人工的な環境でも共存はできる、間違いない 79
4.負傷したドバトとの出会いと別れ: “擬人化” はヒトにとって大切な思考活動なのだ 101
5.小さな島に一頭だけで生きるシカ:シカも、ヒトの生命を維持する装置である 131
6.脱皮しながら自分の皮を食べるヒキガエル:ヒトは、生まれつき生命に関心や愛情を抱く 159
7.タヌキは公衆トイレをつくる:街で暮らす動物たちのことをどう考えるか 183
8.コウモリにはいろいろな生物が寄生している:生きることと潜在的な危険は切り離せない 215
9.ザリガニに食われるアカハライモリ:動物との接し方に新しい規範が必要なときだ 257

 

おわりに 290