『南米キリスト教美術とコロニアリズム』

岡田裕成・齋藤晃

(2007年2月25日刊行,名古屋大学出版会, ISBN:9784815805562目次



第1章第I部「南米植民地美術の成り立ち」を読む.60ページほど.征服者/被征服者の“境界”に成立した「植民地美術」が本書全体のターゲットだが,第1章ではこの「植民地美術」なる見方そのものを再検討する.確かに,16世紀以降,南米のスペイン植民地に持ち込まれたキリスト教芸術は本土から輸出されたものであることは確かだが,単にそれだけではなく,南米に移住した(あるいはそこに育った)スペイン人画家や,以下の論議の中心を占めるはずの先住民画家による積極的な貢献があった.

南米植民地にキリスト教絵画を輸出した本国側の重要人物に,17世紀のセヴィーリャで活躍した画家フランシスコ・デ・スルバランの名前が挙がるのは意外だった(p. 33).〈神の子羊〉の作者として知られるこの画家は,別名「植民地絵画の父」と呼ばれ,彼のセヴィーリャの工房では南米向けの大量の宗教絵画が製作されたそうだ.