『古川ロッパ昭和日記(戦前篇・戦中篇・戦後篇)』

古川ロッパ滝大作監修]

(1987〜1988年刊行,晶文社

筑波西武〈真夏の古本まつり〉にて,前から探していた『古川ロッパ昭和日記』(1987〜1988年刊行,晶文社)の三冊セット(戦前篇・戦中篇・戦後篇)が目黒の〈弘南堂書店〉から出品されていたので即ゲット.大きくてしかも重い函入り本.重量は計5kgもあったので,ぶら下げて歩くのもたいへんだった.補巻「晩年篇」を含めた四冊セットだと古書価格的にとても高くなるが,三冊セットだとぐっと安くなってお得.ただし,あとで「晩年篇」だけ別に探さないといけない.各巻の書誌情報は下記の通り:

  1. 古川ロッパ滝大作監修]『古川ロッパ昭和日記・戦前篇(昭和9年昭和15年』(1987年7月30日刊行,晶文社,東京,816 pp., 本体価格12,000円,ISBN:4794930615)|付録『緑波写真館・1』(32 pp.)
  2. 古川ロッパ滝大作監修]『古川ロッパ昭和日記・戦中篇(昭和16年 — 昭和20年)』(1987年12月8日刊行,晶文社,東京,906 pp., 本体価格12,000円,ISBN:4794930623)|付録『緑波写真館・2』(32 pp.)
  3. 古川ロッパ滝大作監修]『古川ロッパ昭和日記・戦後篇(昭和20年 — 昭和27年)』(1988年12月15日刊行,晶文社,東京,936 pp., 本体価格12,000円,ISBN:4794930631)|付録『緑波写真館・3』(32 pp.)

戦前の古川ロッパといえば,舞台はいつも大入り満員,ときには “天覧” もあったというほどの大人気喜劇役者.絶頂期の昭和11年3月15日(日)の日記の一節:

「何という男としての幸運が僕の上に降りかゝってゐることであらうぞ.日本の東京,そのまん中の東洋一の大劇場を,満員にしてセンセーションを起してゐるのだ.死んでもいゝ.死んでも本望 —— 此の上何を望むべきか,という気持である.神も仏も守らせたまふ,幸な僕である」(戦前篇,p. 156)

それが,敗戦後は別人のように暗転してしまう.昭和25年11月1日(水)の日記にはこう書かれている:

「今日も亦,用なし.あせるな,何も今が今,何うなったというわけぢゃない.此のウスよごれた世の中,アプレゲールの阿呆どもは,俺を受け入れないのだ.無理はない,俺は上等すぎる.……あゝ俺は皆の目にも落ち目と映っているのか,哀れと見えるのか,何と! もういよいよかういう会へはかほ出さない方がいゝのだ.功成り名とげる迄は,もう出まい」(戦後篇,pp. 644-5)

古川ロッパ絶頂期の戦前「昭和日記」は栄華と美食の日々.一方,没落の戦後「昭和日記」は怨嗟と虚栄,ときに弱音,最期は結核へと果てしなく暗転していく.光あれば影ありということはアタマではわかっていても,「戦後篇」ですでに十分におなかいっぱい.続編の「晩年篇」を手にするのがコワいよーな…….

—— 古川ロッパにとって,人気の頂点にあった戦前は「日記に人生を記して」いたのが,戦後,落ちぶれてからは「日記が人生になった」とのこと.他人事ではないな…….

この『古川ロッパ昭和日記』は20年後にほぼ半額の「新装版」が出て,その第一巻はすでにもっているのだが,今回入手したオリジナル版とは印象がぜんぜんちがう.オリジナル版は各巻ごとに「緑波写真館」という写真集が添付されている.これがとてもおもしろい.「喜劇王」と呼ばれた戦前から人気に陰りが出てきた戦後への歴史の視覚化.

また,青空文庫では,他の作品とともに,すでにこの『昭和日記』の電子化が進行していて,年ごとに分割して公開が始まっている.ゆくゆくはすべて公開されるだろう.しかし,それは紙版とは意義が異なる.