『小檜山賢二写真集 TOBIKERA』読売新聞書評

小檜山賢二
(2019年7月19日刊行,クレヴィス,東京, 127 pp., 本体価格4,500円, ISBN:9784909532299版元ページ

読売新聞ヴィジュアル評が公開された:三中信宏小檜山賢二 写真集「TOBIKERA」 」(2019年10月20日掲載|2019年10月30日公開)



 真っ黒な表紙に『TOBIKERA』とだけ書かれた書名を見てもほとんどの読者には何のことだかわからないだろう。しかし、あえて先入観なしに、美麗な深度合成カラー写真の数々を鑑賞する方がかえって効果的だ。

 この稀有な写真集の被写体は、ほんの数ミリから数センチという微小な“自然の芸術的形態”だ。その精緻きわまりないヴィジュアルデザインは、微細な砂粒を城壁のようにきっちり石組みし=写真=、落ち葉をみごとな曲線で切り出して綴り合わせ、小枝を彫刻のように組み上げたオブジェとして形づくられている。写真なのに思わず触りたくなるリアリティーは読む者の目を惹き付けてやまない。/p>

 これらの秀逸な“アート”がトビケラという虫の水生幼虫の巣だとはきっと想像もできないだろう。名もなき“昆虫アーティスト”たちはかくもみごとな“延長表現型”の作品群を渓流のなかで創り続けている。(クレヴィス、4500円)

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年10月20日掲載|2019年10月30日公開)